1 ネットは匿名ではありません
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ネットは匿名の世界だとよく言われています。たとえばインターネットや携帯サイトの掲示板に書きこみをするとき、名前を名乗らなければ自分は見つからない、と思っている人が多いようです。
しかし、それは大きな間違いです。
●ネットでは自分を隠して発言する人がいます
インターネットや携帯サイトの掲示板を見ていると、自分の名前を隠した匿名の書きこみをよく見かけます。掲示板では、書きこみの内容のほかには、書きこんだ人の名前と、書きこんだ時間くらいしかわかりません。ですから、みんなが同じ名前を使って書きこめば、一見すると誰が書いたのかわからなくなります。
この「匿名」を利用して、いろいろなひどいことをする人がいます。たとえば最近よくニュースになっているように、人殺しの予告をする人がいます。また、人を傷つけるようなうそをついたり、他人に知られたくない秘密を勝手にばらしてしまう人がいます。みなさんも、掲示板やブログ、ゲストブックなどで、だれかの(もしかしたら自分の)悪口が書かれているのを見たことがあるのではないでしょうか。
一方、メールでは、送信者のメールアドレスが必ず表示されます。ですから、匿名ではないと思われるかもしれません。しかし送信者の情報は、他の人のメールアドレスにすり替えることができます。送信者のメールアドレスをいつわって、メールを送信することを「なりすまし」と呼びます。迷惑メールの多くも、「なりすまし」たメールアドレスから送られてきます。
実際にあった話ですが、自分のクラスの同級生全員から「うざい」というメールを送られた中学生がいたそうです。その生徒は、怖くて学校に行けなくなってしまいました。しかしよく調べてみると、実はたった1人の生徒が、クラス全員のメールアドレスを使ってメールを送っていた、というのが真相でした。
このように「なりすまし」は、本当の送信者をわからなくするという意味では、匿名に近いものだといえるでしょう。

●コラム ギュゲスの指輪
「むかしむかし、羊飼いのギュゲスは、地震で開いた穴の中で不思議な指輪を見つけました。指輪を身につけると、自分が透明になって他のだれからも見えなくなってしまうことに気づいたのです。ギュゲスは宮殿に忍びこむと王さまを殺し、自分が王さまになって王国を乗っ取ってしまいました。」
このお話は、今から2400年ほど昔にギリシャの哲学者プラトンによって書かれた『国家』という哲学書の一節です。このお話は、「だれにもとがめられないような力を手に入れてしまったら、どんな人でも悪い行ないの誘惑に勝てないのではないか?」という素朴な疑問を、今も私たちに投げかけています。
最近では、ネット上の「匿名」という仕組みはこの「ギュゲスの指輪」にあたるのではないか、という考えられるようになってきました。透明人間になって悪事を働いたギュゲスのように匿名ならば自分の正体がバレることはなく、ネット上で何をやっても自分が責任を問われることはない、だから悪いことをしてもいいんだ、そんなふうに錯覚している人が増えてしまったからです。相手には自分が書いているとわからないと思えば、ついつい気が大きくなり、実際に面と向かってはとても言えないようなひどいことを書きこんだり、いやがらせをしたりしてしまうということもあるでしょう。
しかし、「自分がやったとわからなければ何をしてもいい」ということはありません。哲学者プラトンは、「不正なことをすべきではないのは、その結果が他人にばれてしまうからではない。その人の魂が病気になってしまうからである。」と述べています。もし
「魂が病気になろうが、自分さえすっきりすればそれでいいんだ」と考える人が増えれば、社会はどんどん悪くなって、最後にはいつもおたがいのことを疑っていなければならなくなります。そうなれば、みんなで「ギュゲスの指輪」である匿名を、捨てなければならなくなってしまうでしょう。
匿名には良い面もあります。名前を出さないことで、立場にしばられず、自らの率直な意見を自由に発表できます。また、それによって犯罪が明るみに出たり、犯罪を未然に防ぐこともあります。それは、私たちの社会にとってとても大事なことです。ですから匿名による発言の自由と、無責任を履き違えてはいけません。もしあなたが友達の悪口や、だれかをおとしいれるためのうそ、ましてや犯罪の予告などを、自分以外の人も目にするところに書きこめば、その責任を取らせるためにネット上の人があらゆる手段を使って、あなたを探し出します。悪いことをした責任は、大人も子供も関係なく、自分で取らなければなりません。

●名前を隠してもログを見ればわかります
ネットの世界では、匿名にしたからといってだれにもバレないことはありません。「匿名なら自分は安全」。「匿名なら自分が責任を問われることはない」。そう思いこんでしまうのは、大きな間違いです。 ネットでは、現実の社会よりはるかに簡単に、個人を特定することがで
きるのです。
みなさんがネットの掲示板を読み書きしたり、ブログやサイトを見たりすると、読み書きした先のコンピュータに、いつどこから見にきたのかという記録が残ります。この記録を「ログ」と言います。専門家がこのログを見れば、どこのコンピュータや携帯電話から書きこんだのかわかります。
たとえ「匿名掲示板」を名乗っているサイトでも、必ずログは記録しています。こういう記録は、普通なら公開されませんが、書きこみで被害を受けた人が訴え出たり、警察からの要請があれば、掲示板の運営会社などはログを提出しなくてはなりません。これは「プロバイダ責任制限法」という法律で定められています。
多くの人が共同で使うパソコン、たとえば学校や図書館、あるいはネットカフェやパソコン販売店などに設置してあるパソコンから書きこめば、誰が書きこんだのか見つからないだろうと思う人もいるようです。しかしこういう方法を使っても、どこからいつ書きこまれたかは、ログを見ればすぐわかってしまいます。
また公共の場所やお店では、犯罪防止のために、誰が使ったのかを常に監視カメラで記録しています。携帯電話販売店のお試し用の携帯電話を使って、犯行予告のいたずらをした人がいましたが、ログの情報と監視カメラの映像を組み合わせて、次の日にはもう逮捕されたという
事件がありました。

メールの場合はさらに簡単で、どこからどんなルートを通って届いたかが、メールの「ヘッダー」といわれる部分に付け足されています。ヘッダーは、インターネットメールなら簡単に見ることができますし、携帯メールでも設定を変えたりすれば見られるようになります。

ひとたび問題になれば、みなさんが思っている以上に、記録からあなたを追跡して特定するのは簡単なのです。実世界の犯罪よりも、ネット上でのいたずらのほうが、記録が豊富に残っている分だけ、特定しやすいといってもよいでしょう。


●先生方・保護者のみなさまへ
ネットは匿名性が高いため、さまざまな問題を引き起こしていると考えられています。「ネットいじめ」や「ブログ炎上」「なりすましメール」などは、すべて匿名性を利用した問題です。
これに対して、ネットを実名でしか利用できないようにすべきだ、という主張も有識者の中にはあります。実際に韓国では、事実上の実名主義が取られています。
日本ではネットを匿名で利用できますが、このセクションで説明したように、実際には個人を特定することが可能です。子供たちに「名前を隠してもバレるんだよ」と教えることで、匿名を利用した問題の解決が期待できます。
●用語解説
- ネット
- 本書では、パソコン用のウェブサイトや携帯サイトなど、インターネット技術を応用した広い意味でのネット社会全般を指します。
- インターネット
- 同じく、パソコンでアクセスするウェブサイトのことを指します。
- 携帯サイト
- 同じく、携帯電話でアクセスするサイトのことを指します。しかし最近の携帯電話は、パソコン用のサイトも閲覧できる機能を持っており、次第にその区別が曖昧になっていく傾向にあります。
- ヘッダー
- docomo とau では、携帯からの設定変更で見ることができます。SoftBank は、電話で申請すればパソコンで確認できます。Wilcom では、一部の多機能端末(W-ZERO3 など)では標準で表示できますが、それ以外の端末では表示する方法がありません。